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最遠平面の向こうへ - Beyond the Farthest Plane

 

 

 

 あまりにも当たり前であるが故に、日常生活において改めて考える機会すら与えられないことがある。あまりにも当然なこととして意識にも昇らず、また意識し過ぎることが日常生活に支障をきたす恐れのあること。自身の「知覚」を意識するということは、その様なことかもしれない。例えば、片目をつぶった状態で1日を過ごすことがあるならば、あなたは普段気づかなかった様々な物事に気づくことになるだろう。

 

 ユクスキュルの言う「最遠平面(fernste Ebene)」とは、視空間における知覚の限界であり、この地球上に存在する全ての生物は、種として、または個々の個体としてそれぞれが持つ最遠平面に取り囲まれた世界の中に生きていると彼は言う。また、彼がシャボン玉に例え提唱する「環世界」とは、認識不可能な世界を外 側に持つ、認識可能な世界のことであり、各々の生物を取り巻く知覚世界を指している。では、その「最遠平面」の向こう側、つまり我々の認識の範囲外には一体どの様な世界が広がっているのだろうか。

 

 当然のことながら、自身の知覚の範囲外の物事を体験することは不可能である。それ故、我々は常に知覚可 能な範囲内の物事しか認識することが出来ない。しかし、我々は様々な計測機器や数式を駆使し、認識可能な範囲を押し広げてきた。そして、ユクスキュルが観察と分析から人間以外の生物の「環世界」を想定したように、芸術家もまた、観察と自己の内観によって日常的に意識されることの無い事柄に目を向け、意識可能な範囲を押し広げていくことにより、知覚不可能な世界を想像してきたと言えよう。我々は、人間としての自身の限界そのものを認識することによって、見えないものを見ようとしてきたのである。

 

 本展示は、それぞれ異なるアプローチで制作を行う5名の作家が、ユクスキュル/クリサート著『生物から見た世界』を読み、議論をし、それによって生み出された作品を、その制作/思考過程とともに提示することを試みるものである。

 

 (2015, Iyamari)

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